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高松高等裁判所 平成3年(ネ)180号 判決

控訴人(被告) 徳島県司法書士会

右代表者会長 杉秀夫

右訴訟代理人弁護士 田中達也

田中浩三

被控訴人(原告) 川原正昭

被控訴人(原告) 河野芳郎

被控訴人(原告) 桐山佐枝子

主文

一、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

二、被控訴人らの請求を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一、控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決書「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審記録中の各書証目録及び原審記録中の証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

1. 被控訴人らの主張

(一)  被控訴人徳島県司法書士会(以下「控訴人会」という。)はいわゆる強制加入団体であるから、会がその所属会員に対して義務を課するには、会則上明確にその内容を定めなければならないところ、昭和六三年規則は、強制力をもつ会則ではなく、会員を拘束するものではないから、被控訴人らには同規則に基づく印紙貼用台紙及び証紙を使用する義務、したがってこの方法による特別負担金支払義務はない。

(二)  司法書士法一六条の二は、司法書士会に、所属司法書士の業務上の非違行為に対して注意勧告をする権限を認めたものであるが、被控訴人らは、控訴人会の事業について執行部を批判し、その違法性を指摘したに過ぎず、業務上の非違があったわけではないから、本件注意勧告はその要件を欠く違法なものである。

2. 控訴人の主張

被控訴人らの主張はすべて争う。

本件資金調達及び運用規則一条の二所定の登記申請書又は訴状等の書類一件につき三八〇円の特別負担金納入義務は、会則別表第一の2所定の会費月額六五〇〇円とする改正案とともに、均等会費を減じて応能負担を増すために一括して特別決議により可決したものであり、かつ、法務大臣の認可から除外されている事項に属するものであるから、会則という名称は冠されていないが、会則もしくは会則に準ずるものとして有効と解すべきであり、その義務は法的義務である。

理由

一、引用に係る原判決「第二 事案の概要」欄一ないし三記載の事実は当事者間に争いがない。

二、被控訴人らは、昭和六三年規則に基づく特別負担金納入義務はないので、本件注意勧告は違法であると主張するので、まず、右義務の有無について判断する。

〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

1. 控訴人会は、昭和四一年七月一日から、総会の決議に基づき、会員の相互扶助、福利増進を目的として、会員に対し業務上使用する印紙貼用台紙を一枚一〇円で販売し、実費分を除いた残金を積立て、会員の冠婚葬祭、傷病、退会等の給付金(以下「共済金」という。)に使用していたが、より一層の充実を計るため、これを明文化することにし、昭和四二年一〇月一五日開催の総会において、原判決添付別紙(九)記載のとおりの「徳島県司法書士会制定印紙貼用台紙使用規則」を可決成立させ、翌一六日からこれを施行した(以下「昭和四二年規則」という。)。続いて、昭和四八年度の総会で、印紙貼用台紙の会員に対する頒布価格を一枚一〇円から三〇円に値上げ改定した。

2. 控訴人会では、昭和四四年ころから会館建設の気運が高まり、昭和五〇年五月一八日開催の定時総会において、昭和五一年度着工を目標に具体的な資金調達に乗り出し、印紙貼用台紙の頒布代金を一〇〇円とし、その内七〇円を右建設資金に積立て、不足額については会債を発行することを決議して昭和四二年規則を改正し、同年六月一日から施行した。

3. 控訴人会は、昭和五六年三月一三日、会館建設敷地を取得し、その代金約四五〇〇万円を支払ったのにともない、同年五月一七日開催の定時総会において前記印紙貼用台紙(この間の改正において業務上使用する証紙についても印紙貼用台紙と同様の扱いをする旨定められた。)等の頒布価格を一枚二〇〇円に値上げし、内金一五〇円を会館建設資金に充てることとし、五〇円のうち実費分を差し引いた残金を共済金等に充てることを決議し、同年七月一日から施行した。

4. 控訴人会では、従来、会員が死亡、又は退会したときは、当該会員の印紙貼用台紙等の購入価格のうち会館建設資金に充てられた金額に相当する金員を返還するとの運用がなされていたところ、昭和五七年一月一六日開催の臨時総会において、昭和四二年規則を改正し、右の趣旨を明文化した。

5. ところで、控訴人会では、昭和五九年ころから、会の一般会計の資金が不足し、印紙貼用台紙等の頒布による益金を財源とする福祉(共済金)会計から一般会計への繰入れや会館会計からの立替え等が行われはじめ、昭和六〇年度の予算は、福祉会計や用紙会計から総額五〇〇万円を一般会計へ繰入れて編成されたが、用紙会計からの繰入れが少なかったため欠損を出す事態になった。そこで、当時控訴人会の会長であった被控訴人川原正昭は、昭和六一年二月二二日、臨時総会を招集し、①印紙貼用台紙等の頒布価格を一枚三二〇円とする、②用紙の実費を差し引いた内金八〇円は特別会計として共済金に充て、残金は会の一般会計に繰入れてその資金とする、③会員の死亡、退会時の返還金については、昭和五九年一月一日以後に使用したもの一枚につき七〇円に相当する金員を給付する、との規則改正案を提案し、その決議を得て、同年四月一日からこれを施行した。

6. 昭和六二年五月二四日開催の定時総会において、会長杉秀夫をはじめ新執行部が選出されたが、一部会員から、会員の一律定額会費月額七五〇〇円(年額九万円)を一八五〇円(年額二万二二〇〇円)に減額し、印紙貼用台紙等の頒布価格を一枚三二〇円から五〇〇円に増額するとの会則、及び貼用台紙及び証紙使用規則の改正動議が出された。しかし、同案はかなり極端な改正案であったため直ちに可決するに至らず、会費制度の検討を制度研究委員会に付託することになった。そして、同委員会は、同年一一月二五日、定額会費は月額六五〇〇円とし、印紙貼用台紙等の頒布価格を一枚三六〇円とする、との答申をした。

執行部は、右答申に基づいて検討を重ねた結果、諸般の情勢を考慮し、定額会費は答申どおり月額六五〇〇円とし、印紙貼用台紙等の頒布価格については一枚三八〇円とすることにし、また、昭和六三年四月一日以降使用の印紙貼用台紙等については、従来の、使用したもの一枚につき七〇円に相当する金員を給付する死亡、退会時給付を廃止するとの結論に達した。そこで、昭和六三年三月一九日、臨時総会を招集して右を内容とする会則の一部改正、貼用台紙及び証紙使用規則の改正(「資金調達及び運用規則」と改称)、共済規則の一部改正の三案を一括上程し、特別決議に付し、会員総数一七七名のうち本人出席五二名、委任状出席七七名以上出席者合計一二九名全員の賛成によって可決され、同年四月一日から施行された。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、本件資金調達及び運用規則(昭和六三年規則)並びにその改正前の「貼用台紙及び証紙使用規則」は、当初は、会員の共済、福祉等の特定事業の資金を確保するために制定されたものであったが、司法書士会館建設を契機としてその資金源となり、更には会運営に不可欠な一般会計の収入源となり、会員の受任業務量に応じた特別会費の性質を帯びるに至ったものと認められる。

被控訴人らは、控訴人会はいわゆる強制加入団体であるから、会がその所属会員に対して義務を課するには、会則上明確にその内容を定めなければならないところ、昭和六三年規則は会則ではないから、右規則に基づく印紙貼用台紙及び証紙を使用する義務、したがってこの方法による本件特別負担金の支払義務はない、と主張する。

しかしながら、およそ法人その他の団体(以下「法人等」という。)の目的を遂行するのに必要な諸経費をその構成員がこれを負担すべきこと(それを会費というか、それ以外の名称で呼ぶかは問わない。)は、その法人等が強制加入の団体か否かにかかわらず、すべての法人等に通ずる原則であり、その根拠が「会則」か「規則」かという名称によって左右されるものではない。確かに控訴人会の貼用台紙及び証紙使用による特別負担金支払義務は「規則」によって定められているが、その内容は、控訴人会の維持、目的達成に必要な経費負担に関するものであり、総会の特別決議を経て定められたものであることに徴すると、本件昭和六三年規則一条の二(1)に規定する特別負担金支払義務及び右義務負担の方法を定めた印紙貼用台紙及び証紙使用義務は、「会則」によって定められた義務と同様、被控訴人らを含む会員に対し強制力を有するものであり、被控訴人ら会員は、これに拘束されるものというべきである。

よって被控訴人らは控訴人会の会員として前示昭和六三年規則一条の三第一項、第二条に定める印紙貼用台紙及び証紙を使用することによって一条の二(1)に規定する特別負担金支払義務を負うものというべきである。

そうであれば、被控訴人らが、昭和六三年四月一日施行の資金調達及び運用規則二条に定める証紙及び台紙を使用しないことによって同一条の二(1)に定める特別負担金の支払をしなかったことは、司法書士法一五条の六、会則九〇条の会則規則遵守義務に違反するものということができる。

三、しかるところ、被控訴人らは、司法書士法一六条の二に規定する注意勧告は、司法書士会に、所属司法書士の業務上の非違行為に対してこれをなす権限を認めたものであるが、被控訴人らは控訴人会の事業について執行部を批判し、その違法性を指摘したに過ぎず、業務上の非違があったわけではないから、本件注意勧告はその要件を欠く違法なものである、と主張する。

しかしながら、司法書士法一六条の二は、司法書士会は、所属の司法書士が同法等に違反するおそれがあると認めるときは、会則の定めによって注意勧告をすることができる旨規定しているが、右注意勧告の対象となる行為は、被控訴人ら主張のように業務上の非違行為に限定して解されるべきものでないことは、文理自体から明らかなところである。

しかも、被控訴人らの行為は、単に執行部を批判し、違法性を指摘したものではなく、控訴人会が会則に基づいて決定した、会運営の基礎となる費用負担に関する昭和六三年規則に反して証紙及び台紙を使用せず、したがって特別負担金を支払わなかったものであって、その行為は、司法書士法一六条の二に定める注意勧告処分の対象となるものといわなければならない。

そして、原審における控訴人代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人らの注意勧告は、会則に定める綱紀委員会の調査等適法な手続を経て行われたことが認められる。

そうすると、被控訴人らに対してなされた本件注意勧告は適法であるというべきである。

四、以上のとおりであるから、被控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却されるべきである。

よって、原判決中、被控訴人らの請求を認容した部分は不当であるからこれを取り消し、被控訴人らの請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条一項の本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 田中観一郎 井上郁夫)

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